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最高裁判所第三小法廷 昭和40年(あ)2250号 判決 1966年7月26日

主文

原判決を破棄する。

本件を札幌高等裁判所函館支部に差し戻す。

理由

弁護人佐藤堅治郎の上告趣意第一点は、違憲をいうが、その実質は単なる訴訟法違反の主張であり、同第二、第三点は、単なる訴訟法違反、事実誤認の主張であって、適法な上告理由に当らない。

弁護人小林蝶一、同田頭忠、同永塚昇の上告趣意(補充書および上申書による趣意を含む。)中判例違反をいう点は、引用の判例は事案を異にし本件に適切でないから、前提を欠き、その余は事実誤認の主張であって、適法な上告理由に当らない。

弁護人土家健太郎の上告趣意は、事実誤認、単なる訴訟法違反の主張であって、適法な上告理由に当らない。

しかしながら職権をもって調査するに、記録によれば、原判決判示第一の事実については、当初業務上横領の訴因をもって起訴されたのであるが、昭和三九年三月七日の第一審第八回公判期日において、右訴因は撤回され、「被告人は観光施設の提供を目的とする株式会社大沼ヘルス・センターの常務取締役であって、昭和三五年三月二一日頃開催の常務取締役会において、同会社が池田芳郎所有山林を買収する決議をするにあたり、該山林買収につき交渉等一切の権限を委任されたのであるが、その際、該山林はかねて被告人が右池田の代理人と交渉の結果坪当り七五〇円位で入手しうる見込みがあったにも拘らず、これを秘し自己の利益を図る目的でその任務に背き池田より坪当り九〇〇円で売却する内諾を得た旨虚偽の報告をして、その旨代表取締役等を誤信させて同価格で買収する決議をさせ、同月二八日頃右池田より坪当り七五〇円合計三二一万七五〇〇円で買受けたにも拘らず、同会社をして右山林代金の支払として同年四月七日坪当り九〇〇円合計三八六万一〇〇〇円の支出をさせ、よって同会社に右差額六四万三五〇〇円の損害を与えたものである」旨の商法四八六条一項特別背任の訴因に変更されたこと、一審は、適法に変更された右特別背任の事実を有罪と認定したところ、原判決は、第一審判決の右認定は事実を誤認し法律の適用を誤ったものであるとして、これを破棄自判するにあたり、訴因罰条の変更手続をとらないで、「被告人は、観光開発観光施設提供等を目的とする株式会社大沼ヘルス・センターの渉外担当の常務取締役で、不動産担当の常務取締役信田実を補佐し土地買収等に従事していたものであるが、昭和三五年三月初、中旬頃会社から池田芳郎所有山林の買収方につき交渉、契約締結、代金支払等一切の権限を委任され、同月二五日買収資金等として四〇〇万円を預かり、同月二七、八日頃池田芳郎に対し代金坪当り七五〇円合計三二一万七五〇〇円、池田の税金分三〇万円仮払いの条件で売買契約を締結した上三五一万七五〇〇円を支払い、所要経費三万五〇〇〇円を控除した残額四四万七五〇〇円を会社のため業務上保管中、同年四月四日代表者専務取締役桑野秀治郎に対し四〇〇万円以上を要した旨報告し右四四万七五〇〇円を着服横領したものである」として、起訴状記載の訴因と殆ど同一の事実を認定し、刑法二五三条を適用していることが明らかである。しかし、本件において、一審で当初起訴にかかる業務上横領の訴因につき被告人に防御の機会が与えられていたとしても、既に特別背任の訴因に変更されている以上、爾後における被告人側の防御は専ら同訴因についてなされていたものとみるべきであるから、これを再び業務上横領と認定するためには、更に訴因罰条の変更ないし追加手続をとり、改めて業務上横領の訴因につき防御の機会を与える必要があるといわなければならない。従って、原審がこの手続をとらないで判決したことは違法であって、刑訴法四一一条一号により破棄を免れない。

よって、同四一三条本文に則り裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 柏原語六 裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎)

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